2010年11月11日木曜日

「思想財」あるいは「第三のメディア」としての「ゼマンティク」と「シンボル的に一般化されたコミュニケーション・メディア」

高橋 徹
「意味の歴史社会学 ルーマンの近代ゼマンティク論」
世界思想社

を読了。

・Semantik(ゼマンティク)≒「思想財」(Gedankengut)、「観念財」(Ideeengut)、「コミュニケーション財」
 ある社会で一定の首肯性を帯びた思想・観念・概念。ある種の感受性や行動様式を含む。
 「高度に一般化され、比較的状況に依存せずに使用することのできる意味」。
 基本的なコミュニケーション可能性を基盤として、その上のレヴェルでコミュニケーションにおける不確実性を低減させる機能を果たすもの。
・ゼマンティクと社会構造は相関的な関係。社会構造変動による複合性の変化がゼマンティク変動を誘発し、そのゼマンティク変動がさらなる社会構造変動を促進する。
・ゼマンティク進化
 変異:否定、誤解、誤用などによる意味変化、語体の変化等。
 選択:諸変異の中から社会的に受容されるものが選択される。
 再安定化:選択されたものが特定領域で基準となる=標準化される。
・シュテヘリのゼマンティク解釈:日常生活のコミュニケーション=社会的なものを構成するというゼマンティクの構成的役割。全体社会レベルではなく、相互作用レベル・組織レベルで働くゼマンティク。
・「宮廷」と「社交界」の分化:「政治的相互作用」(=政治的空間)からの「社交的相互作用」(社交的空間)の分化。
・「脱機能連関」:全体社会の部分システムとしての機能連関から離脱すること。
・「退化的形態」:そのシステムの性格が過度に強められ、それ自体が自己目的化してゆくこと。
≒全体社会との機能連関を喪失すること。
ex.上層階層が現実的な力を喪失するに伴って、階層間の差異を象徴化していたエチケットが逆に強調され、洗練されていく。
・ゼマンティク的な分節化:社会システムのオートポイエーシス過程の一部を、一定のまとまりを持った一つの出来事として構成する際に構成図式として機能する。
・コミュニケーション・メディア:「コミュニケーションの危うくなる地点に立ち現れ、まさしく不確実さを確実さに変換させる機能に資している、進化上の獲得物」
 第一のメディア:コミュニケーションを可能にするもの。ex.言語。
 第二のメディア:コミュニケーションの到達範囲を拡大する伝達手段。「拡大メディア」(Verbreitungsmedien)。ex.文書、印刷、通信など。
 第三のメディア:社会的不確実性を基礎条件として、コミュニケーションに方向性を与えるもの。「シンボル的に一般化されたコミュニケーション・メディア」(symbolish generalisierte Kommunikationsmedien)。ex.真理、貨幣、愛、権力など。
・「シンボル的に一般化されたコミュニケーション・メディア」の分類
 他我の体験→自我の体験:真理、価値関連
 他我の体験→自我の行為:愛
 他我の行為→自我の体験:所有/貨幣、芸術
 他我の行為→自我の行為:権力/法
ex.愛のメディア:愛されるものの体験に志向して愛するものが行為を行うという形式で体験と行為の編成を方向付ける。

 
 ルーマン関係の本を読むのはかなり久しぶりだが、ゼマンティクという概念は非常に面白い。コミュニケーション・メディアの三分類と絡めて言えば、貨幣や法などの「シンボル的に一般化されたコミュニケーション・メディア」とは異なるが、コミュニケーションに方向性を与える第三のメディアであるという解釈できるだろう。
 その意味で、シュテヘリ的な解釈も鑑みれば、全体社会レベルだけでなく、相互作用レベルや組織レベルで作用するゼマンティクについて考察を進めてみるのも面白い。
 例えば、「萌え」に代表されるオタク・コンテンツをこれらの道具立てで分析してみると、

第一のメディア:「萌え」の構成要素たる各種の「属性」(映像要素、物語要素など)
第二のメディア:2Chやニコニコ動画などのインターネットを中心とする通信・作品作成支援技術。
第三のメディア:特定の物語類型やキャラクターの外見・振る舞いに「萌え」を感じる感受性とその感受性に基づくコミュニケーションに関連した行動様式=「萌えゼマンティク」。
 ただし、この「萌えゼマンティク」が先鋭化することで、全てを「萌え/萎え」で二元コード化する「シンボル的に一般化されたコミュニケーション・メディア」=「萌えコミュニケーション・メディア」にまで進化する可能性があり、その萌芽と思われる現象も見られる。

といった感じだろうか(笑)

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